(2)「つくることで学ぶ」の視点で見たフィジカル・プログラミング教材と科学遊びにおける造形活動との接点
プログラミング教育の導入に関しては,楽しさ・面白さや達成感を味わわせることでプログラムのよさ等への「気付き」を促し,コンピュータ等を「もっと活用したい」「上手に活用したい」といった意欲を喚起し,学習活動を意欲的に取り組むことにより「プログラミング思考」を育むとされている。1
一方,藤島一満が簡単な製作活動などを通して子どもに作る楽しさ,わかる喜び,豊かな体験を与え,その活動により思考力,探究心,創造性を養い高めるとしている2科学遊びにおける造形活動に関しても,平成30年度版幼稚園教育要領解説(以下「要領解説」と表記)が「幼児はその活動の中で周囲の環境の様々な意味やかかわり方の発見について思考を巡らし,想像力を発揮して行う」3と「活動」と「思考」との関係性を示しているように,プログラミング教育が重視する「気づき,意欲,思考」をその活動等の中で味合わせることができる点でプログラミング教育において造形活動を行う意味があると思われる。加えて藤島は「為すことによって学ぶ」として,科学遊びにおいて失敗を恐れることなく,直接に事物に関わり,自力で疑問を解決するやり方を大切にしている。17また,造形活動においても林建造は,子どもが「ああでもない,こうでもない」と試行錯誤できる材料・用具・場所等を用意する環境づくりを求めている。4
1 文部科学省,2018,「小学校プログラミング教育の手引(第二版)」,p.11,http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/1403162.htm(2019年8月10日取得)
2 藤島一満,1991,「みんなの科学,科学遊びのすすめ」,建帛社,p.1,
3 文部科学省,2018,「幼稚園教育要領解説」,フレーベル館,p.35
4 藤島,1991,前掲書,pp.ⅰ-ⅰⅰ
5 林建造,岡田憼吾,1992,『保育の中の造形表現 豊かな感性を育てる実践と援助』,サクラクレパス,p.17
そして「ものづくりこそが,学びの本質であり子ども達にとって欠かせないものである」5と,科学遊びの「為すことによって学ぶ」や造形活動に通じる「ものづくり」を重視した学習理論にシルビア・リボウ・マルティネスらによる「作ることで学ぶ」がある。
彼らの学習理論は「取り扱い可能な素材を用いて,有意義な成果物の構築を学習者が経験する活動こそ,もっとも効果的な学習である」6という「構築主義」の学習理論を核としている。そして,その学びを構成する要素として「メイキング・ティンカリング・エンジニアリング」の3種を提示している。7,また,彼らはメイキングを「ものづくり」,ティンカリングを「あれこれ思いつくままに知恵を絞り工夫すること」8と説明し,学ぶためのパワフルな方法として子どもに関わることを勧めている。9
5 シルビア・リボウ・マルティネス,ゲイリー・ステージャー,2015,『作ることで学ぶ ―Makerを育てる新しい教育のメソッド』,オライリージャパン,p.xiii
6 シーモア・パパート,1982,「マインドストーム―子供,コンピュータ,そして強力なアイデア」,未来社,pp.4-5
7 リボウ・マルティネス,ステージャー,2015,前掲書,pp.35-36,「メイキング=ものづくりの構築は,学習の中で積極的な役割を果たす」「ティンカリングは直接経験,実験,そして発見を通して問題に気づき,解決を図っていく遊び心あふれた心構え」「エンジニアリングは身の回りの世界に関するよりよい説明・測定・予測を可能にするエンジニアリングは直感と科学の間のきちんとした橋渡しをする」と各要素を説明。
8 上書,p.xviii
9 上書,p.xix
さらに,この理論ではメイキングを重要視するデール・ダハティらが「実際に自分で手を動かして苦労してみないかぎり,自分の才能はわからない」としているように実技を通した自己理解と学びをその利点としている。10加えてマルティネスらは,現代の教育現場においてメイキングの機会と出合えない子どもが大勢いるとし,テクノロジーを自在に扱えるようになったり,学習を自在にコントールできるようになったりするためにメイキングの必要を指摘している。11この意味において造形活動は,手やはさみ,身近な材料・道具等の多様なツールの使用をとおして,子ども達にメイキングの機会を提供しているといえる。
そのメイキングの道具として彼らはコンピュータを「戯れる」ための素材として捉え,その「戯れる」が学びの場所となっているとしている。そして,コンピュータを子供がアイデアを折り込み,自身の目的のために使い方を習得することのできる柔軟な素材と価値づけている。12
また,彼らは子ども達がコンピュータを利用して「ゲーム・チェンジャー(変革を起こすもの)」13の機械等を発明する学びとしてフィジカル・コンピューティングに着目している。そして,そこでのコンピュータ等のハイテクとローテクの素材による混成環境が,幼い学習者でも最先端にアクセスできるよう役立ち,ティンカリングに通じる子どもの遊び心とも一致しているとしている。14
10 デール・ダハティ,アリアン・コンラッド,2017,『私たちはみなメイカーだ ―メイカーが変革する教育,仕事,社会,そして自分自身』オライリージャパン,p.24
11 マルティネス,ステージャー,2015,前掲書,p.262
12 上書,p.40
13 上書,p.155
14 上書,p.156
したがって「メイキング・ティンカリング・エンジニアリング」で学びを構成し,フィジカル・プログラミングを重視する「作ることで学ぶ」を視点に科学遊びにおける造形活動を分析してみると,「造形」はメイキングに,「科学」はエンジニアリングに,「遊び」はティンカリングに通じる,そして,この「遊び」と「造形」,双方の要素は,子どもの遊びでは一体的に展開されていることから,図6のようなプログラミング学習との関係性を整理できた。