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イギリスのクリエイティブ・パートナーシップ事業 

2 「創造性の育成」と環境芸術
 社会の中で行われている芸術活動を子どもが学校で体験できるようにする取り組みが,現在,イギリスをはじめ,日本においても展開されている。

(1)イギリスのクリエイティブ・パートナーシップ事業 
①報告書「All our Futures」
イギリスの学校教育では,近年,創造性の育成が一層重視されるようになっている。 
2002年から,芸術家を学校に派遣したり(クリエイティブ・パートナーシップ),創造的な芸術活動を行っている学校を評価し賞を与える(アーツ・マーク),若者のための芸術賞(ヤング・ピープル・アートアワード)等のプログラムが,政府の外郭団体「アーツカウンシ・イングランド(ACE)」の手によって行われている。                    
学校に,これらのプログラムが導入されるきっかけになったのが,1999年,文化・メディア・スポーツ省と教育雇用省からの諮問を受けて,英国創造的教育・文化教育諮問委員会(National Advisory Committee on Creative and Cultural Education:NACCCE)により作成された調査報告書「All our Futures:Creativity,Culture and Education」だった。
この報告書が出された背景には,1990 年代に実施された全国的な学力テストによる「創造性を育てる前にまず学力向上」という風潮への反省があった。
学力テストで,子どもの学習内容は標準化されたが,試験に合格する技術が向上しただけで,本当の意味では学んでいないということが分かってきた。なぜなら,学力テストを受けた子どもが大学に進み,職場の一員となった時,自立して考える能力,質問をする能力,人と関わる能力等が十分に発揮できないということが判明してきたからである。
そして,創造性を軽視した教育では,激しく変容する21 世紀の社会・経済の中で生き残れないという議論が高まってきた。これを受けて発表されたのが『All Our Futures』だった。


「All Our Futures」では,まず,創造性を「独自性があり,かつ価値のあるような結果を生み出すために作り上げられる想像的な活動」と定義し,そして,「創造的な能力を身につけることは,―略-国や会社の国際競争力にとって重要になる」として,経済的発展のために創造的な能力を重視している。
さらに,「人間の活動のあらゆる分野において創造力が向上する可能性がある」と,創造性を芸術家や特定のタイプの人だけのものではなく,全ての人が身につけることが可能な能力としている。
そのため,報告書では,創造的教育を「若年者の独自のアイデアと行動に対する能力を開発する教育形態」と定義し,「子ども達が生産的思考と批判的思考の相互作用を理解し,処理することを手助けすることは,創造的教育の極めて重要な仕事」として,その充実を求めている。そして,「学校は現在,創造的で文化的な教育のための対策の質を向上させる個人や組織と幅広い分野で協働する」として,個人,組織間の多重連携による創造的教育の推進を提案している。
②クリエイティブ・パートナーシップ事業の概要
 クリエイティブ・パートナーシップは,この提言を受け,子ども達の学校での学びをより楽しく創造的なものにすることをめざし,英国の文化・メディア・スポーツ省(Department forCulture, Media and Sport :DCMS)と教育技能省(Departmentfor Education and Skills : DfES)からの4000 万ポンド(約80億円)の予算により2002 年4 月に設立された。そして,そのプログラムの実施はアーツ・カウンシル(ACE)が主導している。
その活動目的は「①英国が有する創造的・文化的な財産と学校を結び付けること,②協働の可能性を追求すること,③教育と芸術との協働により『教えること』,『学ぶこと』のあり方に変革をもたらし,将来において創造産業に従事する労働人口を育成すること」の3つであり,これらは国の文化政策に則って策定されている。
イギリスにおいて,この事業が行われる以前も芸術家が学校に訪れることはあった。しかし,1 日か数日間おこなわれる程度で,それほど深みのある関わりはしていなかった。「All Our Futures」の提言後,クリエイティブ・パートナーシップの支援を受け,芸術家と学校の教師が一緒に考えた実践が展開されるようになった。
当初は経済的社会的に問題を抱えている16の地域の学校でのプログラムだったが,2006年の段階では1,162校で事業を実施し,1,359校にプログラムを提供してきている。現在では,プログラムに参加した子どもが545,000人,教師が50,088人という数に達しており,6,237人の芸術関係者がこれまで事業に参画しているという統計が報告されている。
この事業が果たす役割は,芸術を通して学校に創造的な学びを提供し,学校そのものを変革していくことにある。ある学校とパートナーを組もうという場合,その学校の抱えている課題を一緒に考えながら作業を進める。
まず,学校側からの「こういうことに焦点を当てたい」,「こういうふうに変えていきたい」という要望を受け,機関はその要望に合致する芸術団体や個人の中からパートナーを選び,仲介し,交渉する。

例えば,2007年にウエイト島のセントジョージ学校で行われたプロジェクトでは,芸術家が12ヶ月間,パートナーとなり,子ども達をリードして,自然素材と布を使ってドーム状の環境芸術を作るなど,屋外における創造力の育成を目的とした造形活動を展開している。                     
環境芸術の制作だけでなく,音楽や演劇,ダンス等,多方面に渡り行われている,このようなプログラムを,イギリスでは,学校(子ども)と芸術家を繋ぐという意味で「カタリスト(触媒)」プログラムと呼んでいる。
by kazukunfamily | 2010-10-06 22:00 | アートと地域

子どもと環境とアート教育の関わりを生かした図画工作科教育の実践的研究


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