地域の持続可能性について

神戸もそうでしたが、大きな災害の後、再びその地域の人口が回復し、地域の持続可能性が高まることはなかなか難しいところです。かくいう私も、裏の河川は土砂が以前より数メートル堆積し、浅くなったため、水位がすごく上がりやすくなり、床上浸水の可能性がかなり高くなっています。雨が降るたびに夜通し川を見ています。災害への恐怖のため、住み慣れた土地を出ていかざるを得ない人もおわれるのではないかと思います。(今日のニュースで、バスで他の土地のいかれる方が、もう2度と戻ることはないと言っておられるの聞いて、身につまされました。)
そこで、今再び、地域の持続可能性についての、私のつたない研究のいったんをごらんいただきます。(番号は、註です。あしからず)

持続可能な社会の定義
 『“国連持続可能な開発のための教育の10年”ガイドライン』において、「持続可能な社会」と「持続可能な開発」との関係について、「持続可能な開発によって私達が目指す『持続可能な社会』」114)というように、持続可能な社会を実現する手だてとして「持続可能な開発」が位置づけてある。そこでまず、「持続可能な社会」の定義を明らかにするために、その概念や定義が多様な議論を招いた「持続可能な開発」について分析する。
 この「持続可能な開発」の定義は、70以上あるともいわれる116) 。その中で、「持続可能な開発」という概念を公式に初めて提示したのは1987年に「環境と開発に関する世界委員会(WCED)」が公表した報告書『我ら共有の未来(Our Common Future)』である。この報告書では、「持続可能な開発」を次のように定義している。
「持続可能開発とは、将来の世代の欲求を充たしつつ、現在の世代の欲求も満足させるような開発をいう、持続的開発は鍵となる二つの概念を含んでいる。一つは、何にも増して優先されるべき世界の貧しい人々にとって不可欠な「必要物」の概念であり、もう一つは技術・社会組織のあり方によって規定される、現在及び将来の世代の欲求を満たせるだけの環境の能力の限界についての概念である」(傍線筆者)115)。
この概念については、「1つの独創的だが曖昧な言葉で、一見魅力的だがつかみどころのない概念」117)等の批判がでていた。例えば、国際自然保護連合、世界自然保護基金、国連環境計画は、1991年の『新・世界環境保全戦略』において、「環境と開発に関する世界委員会」が提起した定義について、以下のような問題点を指摘している。
「この術語はあいまいであっていろいろな解釈が可能であり、しかも多くは互いに矛盾すると批判されてきた。こうした混乱は『持続可能な開発』、『持続可能な成長』あるいは『持続可能な利用』があたかも同じことを意味するかのように、互換的に使用されてきたことに起因している。こられは同じではない。『持続可能な成長』というのは矛盾した術語であって、自然界では無限に成長できるものではない。『持続可能な利用』というのは再生可能な資源に対してのみ適用できる術語であり、その意味は各資源のそれぞれの再生能力を超えない程度で利用することである」118)。
すなわち、先の報告書の定義は、多様な解釈が可能なため、「保護」と「開発」の両者にとって、その利害関係や主張を裏付けるために利用でき、かえって両者の対立が長引き、地球環境保全への動きに遅れが出ることを不安視していた。
 その混乱を解消するため、同戦略の中では、「持続可能な開発」を「人生の生活の質的改善を、その生活支持基盤となっている各生態系の収容能力限度内で生活しつつ達成することである」119) と定義した。
このように1980年後半から1990年代にかけて、持続可能な開発に関わる理念や考え方には論者や団体等によって様々なものがあった。一方、日本おいては、1992年の環境白書において、今後、目指す「持続可能な社会」の姿を示すために、地球サミット以降に議論されてきた議論等における「持続可能な開発」の内容については、その理念や考え方に以下の4点の共通的理解が見いだされるとした120)。
「①環境のもたらす恵みを将来世代にまで引き継いでいこうという、長期的な視点を持っ  ている点
 ②地球の大自然の営みとの絆を深めるような新しい社会や文化を求めている点
 ③人間としての基礎的な二一ズの充足を重視し他方で浪費を退けるような新しい発展の  道を実践することにより、世界全体で社会経済の持続可能性を高めようとしている点
 ④多様な立場の人々の参加、協力と役割の分担が不可欠であるとしている点」
この4点の理念や考え方は、目指すべき「持続可能な社会」の姿として、2004年の『環境の保全のための意欲の増進及び環境教育の推進に関する基本方針』の中に引き継がれることとなるが、「持続可能な社会」の姿を日本の環境政策において明確に位置づけたのが、1993年の「環境基本法」と翌年に閣議決定された「環境基本計画:平成6年度版(第1次環境基本計画)」だった。まず、「環境基本法」においては、第4条において「環境への負荷の少ない持続的発展が可能な社会の構築等(環境政策の理念)」として以下の条文が定められている。
「環境の保全は、社会経済活動その他の活動による環境への負荷をできる限り低減すること。その他の環境の保全に関する行動がすべての者の公平な役割分担の下に自主的かつ積極的に行われるようになることによって、健全で恵み豊かな環境を維持しつつ環境への負荷の少ない健全な経済の発展を図りながら持続的に発展することができる社会が構築されることを旨とし、及び科学的知見の充実の下に環境の保全上の支障が未然に防がれることを旨として、行われなければならない」(傍線筆者)121) 。
 この条文を受け、「第1次環境基本計画」の前文では、「持続可能な社会」の構築について次のように述べている。
「我が国の環境、そして地球環境を健全な状態に保全して将来世代に引き継ぐことは現在の世代の責務である。これは、人類共通の課題でもある。我が国としては自らの社会を環境への負荷の少ない持続的発展が可能な社会に変えていくとともに、国際的協調の下に地球環境保全のための取り組みを積極的に進めていかなければならない」(傍線筆者)122)。
 以上の条文が示すように環境基本法や第1次基本計画では「持続可能な社会の構築」を1990年代以降の環境政策の中核に据えた。そして、「循環」、「共生」、「参加」及び「国際的取り組み」という4つの長期目標を掲げ、これに基づく施策の展開によって、持続可能な社会の構築に向けた取り組みを進めることとした。
 しかし、1990年代その構築は必ずしも順調とはいえず、地球温暖化問題をはじめとするその後の地球環境の悪化は著しく、日々の生活、発展途上国の貧困、環境破壊の進行に大きな悪影響を与えていた。そのため、2000年に開催された国連総会において、20 世紀に実現できず、21世紀に早急に解決に取り組むべき課題が整理され、国連ミレニアム開発目標として提唱された。
 国際的な20世紀の環境政策への課題分析と今後の実行計画策定の流れを受け、日本は2000年に21世紀半ばを見通しながら、持続可能な社会構築のための環境面からの戦略を示し、21世紀初頭における環境政策の基本的な方向と取り組みの枠組みを示した「環境基本計画:平成12年版(第2次環境基本計画)」を策定した。
 この第2次環境基本計画では、「持続可能な社会」への具体的な取り組みの方向性を示すために、環境を構成する大気・水・土壌・生物間の相互関係により形成される諸システムに悪影響を与えない、以下のような社会経済活動の条件を求めている123)。
「①『再生可能な資源』は、長期的再生産が可能な範囲で利用されること。
 ②『再生不可能な資源』は、他の物質やエネルギー源でその機能を代替できる範囲内で利  用が行われること。
 ③人間活動からの環境負荷の排  出が環境の自浄能力の範囲内  にとどめられること。    ④人間活動が生態系の機能を維持できる範囲内で行われていること。  
 ⑤種や地域個体群の絶滅など不可逆的な生物多様性の減少を回避すること。」
これらの条件が示すように第2次環境基本計画では「持続可能な社会」構築するためには、可能な限り、環境負荷を生み出す資源・エネルギーの使用が効率化され、生産活動や消費活動の単位当たりの環境負荷が低減された社会、すなわち、資源・エネルギー効率性と環境効率性の両面において高い効率性が達成された社会の実現を目指す必要性を指摘した。そして、その実現するために、大量生産、大量消費、大量廃棄型の生産と消費のパターンから脱却し、経済の成熟化を伴いながら、資源とエネルギーの大量消費に依存しない循環型社会=「循環」を基調とした社会経済のシステムや社会基盤の形成を提言した 125)。この循環型の生産・消費システムの考え方は、地域社会において「持続可能な社会」の構築を地域資源等を利用した表現活動によって寄与しようとする本論文の教材開発等において留意すべき点であると思われる。
 第2次環境基本計画に前後して、日本の環境教育おいても「持続可能な社会」の構築をめざす取り組みがスタートした。1997年のテサロニキ宣言を基に1999年、中央環境審議会が「これからの環境教育・環境学習ー持続可能な社会をめざしてー」が答申した。これにより、環境教育が「持続可能な社会」を実現する手だてとして位置づけられた126)。
 そして、2002年の南アフリカのヨハネスブルクにおいて開催された「持続可能な開発に関するサミット」において、当時の小泉総理が2005年から始まる10年を「国連持続可能な開発のための教育の10年(ESDの10年)」とすることを提案した。その後、同年に開催された第57回国連総会に日本は「持続可能な開発のための教育の10年」に関する決議案を提出し、全会一致で採択された。
 この様に国際社会においても「持続可能な社会」の構築を環境教育によって可能にすることを提唱した日本は、国内での環境保全及び環境教育をより一層、充実させる必要に迫られた。そこで2002年に環境施策に関するプロジェクトチームの「環境教育推進に関する小委員会」が開催され、「ESDの10年」の推進体制作りのためにユネスコ、関係省(環境、文科、外務)、NGOが協力して取り組むべきことが申し合わされた。その後、同小委員会が中心となって2003年6月、環境教育等に関する議員立法、「環境の保全のための意欲の増進及び環境教育の推進に関する法律案」がとりまとめられ、同年に成立した127)。この法律案は国民、NPO、事業者等による環境保全への理解と取り組みの意欲を高めるため、環境教育の進行や体験機会、情報の提供を行うことを目的としていた。
 この法律では、「持続可能な社会」を「健全で恵み豊かな環境を維持しつつ、環境への負荷の少ない健全な経済の発展を図りながら持続的に発展することができる社会128)」とし、「持続可能な社会」という言葉の標準的な意味内容を法律レベルで初めて定義した。この定義はその後、各所で論議されてきた「持続可能な社会」の多種多様な定義を整理する役割を果たした。そして、この法律を具現化する基本方針を示した『環境保全の意欲の増進及び環境教育の推進に関する基本的な方針』(以下、単に「基本方針」と呼ぶ)は2004年9月に閣議決定され、法律は完全施行された。 
 しかし、過去2回の環境基本計画、さらに環境保全を環境教育で推進する法律が施行され、政府は各分野で環境保全のための取組を進め、国民、各種団体、事業者、地方公共団体といった様々な主体による取り組みも進められているにも関わらず、国際的な環境の改善は十分であるとはいえない状況だった。すなわち、地球温暖化の影響と思われる自然災害の多発、地球資源の大量採取、破棄物の不法投棄等の深刻な現状が国際会議等でレポートされるようになり、地球環境の破局へのカウントダウンが加速している懸念が現実のものとして国際的に共通認識されるようになった。 
 その懸念を払拭し、改善への方向性を示すため2006年に「環境基本計画-環境から拓く新たなゆたかさの道(第3次環境基本計画)」が閣議決定された。この基本計画では、目指すべき「持続可能な社会」を以下のように定義している。
「健全で恵み豊かな環境が地球規模から身近な地域までにわたって保全されるとともに、それらを通じて国民一人一人が幸せを実感できる生活を享受でき、将来世代にも継承することができる社会」(傍線筆者)129)
これは、「環境の保全のための意欲の増進及び環境教育の推進に関する法律」の定義を踏まえ、「持続可能な社会」の構築に関わる者が、具体的な取り組みが起こせる、そのイメージを共有しやすい分かりやすい定義と思われる。よって、本論においては、「持続可能な社会」の定義として、この第3次環境基本計画の定義を採用する。また、目指すべき「持続可能な社会」の具体的あり方として1992年の環境白書において示してあった4点の共通的理解、(①環境の恵みを次世代に引き継がせる長期的視点②自然の営みときずなを深める文化・社会を求めている点③基礎的ニーズを重視しながら浪費をさける発展の道の実践により、世界全体で社会経済の持続可能性を高めようとしている点④多様な立場の人々の参加、協力、役割の分担を不可欠とする点)を参考にする。
 この3次環境基本計画では、環境政策の方向性の一つに「環境的側面、経済的側面、社会的側面の統合的な向上」130)という項目がある。これは第2次環境基本計画において、持続可能な社会の構築には、環境問題の根本にある社会のあり方そのものを転換していくことが必要で、その転換のために「環境」「経済」、「社会」という社会経済活動の各側面を統合的にとらえ、環境政策を展開していく「統合的アプローチ」が環境政策の基本的な考え方として採用されていたからである。
 そして、第3次環境基本計画でも、恵み豊かな環境を継承・創造していくためには、社会経済システムに環境への配慮を織り込んでいくと同時に、環境の持続可能性を確保するためには社会、経済の側面についても健全で持続的な向上が必要であると考え、3つの要素を統合させた環境政策の計画が盛り込まれた131)。
 このことから「持続可能な社会」を地域社会において構築するためは、「環境」、「社会」、「経済」の3要素の持続可能性について、分析し、3要素を統合した取り組みが必要になる。しかしながら、「持続可能な社会」は、この3要素だけでその構築が可能なのだろうかという疑問が残る。なぜなら、文部科学省における「持続可能な開発のための教育の10年」に向けた具体的な施策の例においては、取り組みの視点を「環境」、「経済」「社会・文化」の3つに設定しており132)、3要素に「文化」が加わっている。確かに里地里山や都市市街地地域が抱える課題の中には、祭り・伝統行事・伝統芸能・地域固有の景観等の文化的環境に関わる内容があり、「文化」の持続可能性も今後の地域社会において重要になってくると考えられる。
 そこで、次項においては、「持続可能な社会」の構成要素として、「環境」、「社会」、「経済」の3要素が設定され、そこに、なぜ「文化」が追加されるようになったのか、地球サミット等において示された3要素に関わる記述や前項で見いだした里地里山地域と都市市街地の抱える課題点との接点を分析することで明らかにしたい。
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by kazukunfamily | 2011-03-16 21:52 | 博士をめざす方へ

子どもと環境とアート教育の関わりを生かした図画工作科教育の実践的研究


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