地域の持続可能性その2

③持続可能な社会の構成要素
ア、環境的、経済的、社会的な持続可能性について
 2002年のヨハネスブルグサミットにおいて、下記のように「社会」、「環境」、「経済」は持続可能な開発の構成要素として再確認された。
「あらゆるレベルで具体的な行動及び措置をとるとともに国際協力を強化することを約束する。こうした努力は、持続可能な開発の三つの構成要素(経済開発、社会開発、環境保全)を、相互に依存し補強し合う支柱として統合することをも促進する。貧困撲滅、持続可能でない生産消費形態の変更、経済、社会開発の基礎となる天然資源の保護と管理は、持続可能な開発の、総体的目標であり、不可欠な条件である」133)(傍線筆者)。
この「社会」、「環境」、「経済」3要素が国際的に注目され始めたのは、1992年の環境と開発に関する国連会議(通称:地球サミット)といわれている。その地球サミットの事務局長であり、国連事務次長兼国連平和大学学長を務めたモーリス・フレデリック・ストロング は、持続可能な開発の三つの基本的事項として、「社会」、「環境」、「経済」を下記のように取り上げている。
「同時にみたさねばならぬ3つの基本的な基準事項は、社会的衡平(social equity)と環境上の分別(ecoiogical purdence)と経済的効率(economic efficiency)である」134)。
そして、この3要素は1992年の地球サミットにおけるリオ宣言やアジエンダ21には規範概念として盛り込まれるようになった。
 この「社会」、「環境」、「経済」がアジェンダ21等の国際的環境保全の行動計画に取り入れらた理由を、京都大学大学院教授の植田和弘は、以下のような「持続可能な開発」(サブティナブル・デベロップメント)という用語の3つの解釈を示すことで説明している。 ①「エコロジカル・サブティナビリティ(ecorogical sustainability)」
  1980年に国際自然保護連合が出した『世界保全戦略(World Conservation Strategy)』で、 サブティナブルという用語が使われている。そこでは、自然は保護する必要があるので、 利用しながら保護する、保護しながら利用するという戦略がとられている135)。
 ゆえに、「環境」に関わる持続可能性が『持続可能な開発』に入っている。
 ②「エコノミック・デベロップメント(経済開発:economic development)」
  開発経済学という分野がある、そういところでは一貫として所得を向上させることを 念頭においている。すなわち、経済成長を追求して所得を上げていけば、最後は最も貧 困な層もよくなるはずと考えた136)。ゆえに、「経済」に関わる持続可能性が「持続可 能な開発」に入っている。
 ③「社会開発(ソーシャル・デベロップメント:Social development)」。
  南北間問題や男女の平等問題等、所得を上げただけでは解決しない社会問題がたくさ んある。そういう問題にも取り組むことで、本当に人々の暮らし向きを改善できる、意 味のある開発になると考えた137)。ゆえに、「社会」に関わる持続可能性が「持続可能 な開発」に入っている。
 そして、「環境」、「経済」「社会」は「持続可能な開発」に深く関わる要素として、1980年代からの「持続可能な社会」に関する議論の中に取り上げられ、3つの要素を統合的に、包括的に扱った行動計画等が策定された。
 そうして2005年にユネスコが作成した「国連持続可能な開発のための教育の10年2005-2014年国際実施計画」において、「環境」、「経済」「社会」は、持続可能な開発に関する3つの重要な領域として、以下のようにその内容を規定された138)。
「①『社会』
 社会を構成する機関及びその役割の変化と発展についての理解、及び意見の表明、政府 の選定、コンセンサスの形成、違いの克服のための機会を与えてくれる民主的で参加型 のシステムについての理解。
 ②『環境』
 環境についての関心を社会的、経済的な政策の形成に関わらせることによる、資源と自 然的環境の脆弱性や人間の活動と決定が環境に及ぼす影響についての認識。
 ③『経済』
 個人及び社会レベルの消費を環境や社会的公正の観点から評価することによる、経済的 成長の限界と可能性、及びその社会と環境への影響についての感性」。
 このユネスコの定義と、この定義を参考に作成された文部科学省、「文部科学省における“持続可能な開発のための教育の10年”に向けた取り組み」を参考に本論においては、「持続可能な社会」を構成する3要素、「環境」、「経済」「社会」に関わる持続可能性について以下のように設定する。
○環境的持続可能性
 資源と自然的環境の脆弱性や人間の活動が環境に及ぼす影響について認識し、環境につ いての関心を学習や行動に反映することで可能になる持続可能性。
○経済的持続可能性
個人及び社会レベルの消費を環境や社会的な観点から評価し、経済的成長の限界と可能 性及びその社会と環境への影響について認識できるようになるため、地球資源の現状と 重要性を認識し、地球に負担を掛けない新規の資源の開発、既存の資源のリサイクル利 用を促進し、企業のみならず、個人レベルにおいても省資源の意識を高めることで可能 になる持続可能性。
○社会的持続可能性
社会を構成する機関とその役割について理解し、意見の表明、コンセンサスの形成、他 者との違いの克服の 機会を与える民主的 で参加型の社会を構 築することで可能に なる持続可能性。
この設定した3要素の持続可能性について、先項で分析した地域社会においてその持続性を脅かしてる人口の偏在が里地里山地域と都市市街地にもたらす課題と、どのように関連しているのか見てみた。
 すると、地域の文化的環境に関わる課題点を3要素のどこに分類すればよいのかという疑問が芽生えた。例えば里地里山地域では、「自然と共生した景観の喪失、生活と密着した地域の季節ごとの祭りや行事の縮小及び消滅、神社・仏閣・鎮守の森の荒廃・地域へ伝統芸の衰退、地域の伝統工芸の衰退と消滅」、そして、都市市街地地域では、「都市の中心部及び郊外の景観のオリジナリティの喪失、祭り等の縮小や消滅、神社・仏閣・歴史的建造物の荒廃や取り壊し、地域へ伝統芸能の衰退、地域の伝統工芸の衰退・消滅」等を「社会」や「経済」に分類すると、「文化」の解釈が狭義すぎるような違和感を感じる。そこで、「環境」、「経済」「社会」の3要素に「文化」という要素に関わる持続可能性を加えてはどうかと考えた。
イ、文化的持続可能性について
 この「文化的持続可能性」については、国連環境開発会議(リオデジャネイロ会議)事務総長特別顧問だったイグナチ・サックスが、著書『健全な地球のためにー21世紀に向けての移行の戦略』において、「社会」、「環境」、「経済」という3要素に加えて、多文化共生に関連づけた「文化的持続可能性」を考慮に入れて「持続可能な開発」を検討する必要があるとしている139)。
 また、ユネスコの「国連持続可能な開発のための教育の10年2005-2014年国際実施計画」においても、「社会、環境、経済の三分野は、文化という要素を通じて互いに結びついており、このことを我々は持続可能な開発の特徴として常に心がけていなくてはならない」140)と図9のように、「持続可能な社会」を構成する「環境」、「経済」、「社会」の3要素を結びつける核として「文化」を位置づけている。
 このユネスコの国際実施計画では、持続可能な開発のための教育の中で「文化」的な側面を強調する理由として、以下のような事項の重要性を強調できるからとしている141。
「①多様であることを認識すること
  世界の自然的、社会文化的な状況が多様であることによる人間の経験が生み出すもの  の豊富さ。
 ②違うことへの尊敬と寛大さを育むこと
  そこでは、違うものとの接触が自らを豊かにし、挑戦と刺激を呼び起こす。
 ③オープンな議論と対話が継続するよう努めることにより、価値を認めること
 ④個人の生活や組織の活動において、持続可能な開発を支える尊重と品位という価値観をモデル化すること
 ⑤持続可能な開発のすべての局面において人的能力を高めること
 ⑥動植物や持続的な農業生産、水の使用方法など地方の土着の知識を活用すること
 ⑦辺鄙な地域からの過大な人口流出の防止方策などを含め、持続性を構築するための実践活動や伝統への支援を育むこと
 ⑧意識的なものか不注意によるものかに拘わらず、開発という名の下に自然や社会、世界を無視したり、破壊したりすることなく、文化的に特別な見方により、自然、社会、世界を認識し、活動する
 ⑨相互のふれあいや文化的な独自性を発揮するための原動力として、地方の言語の利用や発展を含むローカルな通信方法を採用する
ユネスコが、持続可能な開発を構成する要素として、「文化」を重要視し、持続可能な社会への多様な効果を期待しているように、本論文においては、持続可能な社会を地域社会において構築する取り組みを構想、実施する際に、図9のように「文化」に関する持続可能性を他の3領域を結びつける核として位置づけたい。そのため、ユネスコの「国連持続可能な開発のための教育の10年2005-2014年国際実施計画」の「文化」の要素に関する記述を参考に、本論では「文化的持続可能性」を以下のように設定する。
○文化的持続可能性
 文化は生存や人との関係、振る舞い、信仰及び活動の方法であり、その価値と独自性 が「持続可能な社会」を構築する取り組みの方向性を定め共通の関わりをもつ上で大きな役割を果たしていることを認識し142)、市民の積極的な参画等により地域独自の多様で豊かな文化を創造する活動によって可能になる持続可能性。
 この文化的持続可能を加えた4要素の持続可能性(環境・社会・経済・文化)で、再び里地里山地域と都市市街地が抱える不安要素を表15のように分類してみた。すると、より一層、里地里山地域と都市市街地における課題を明確に整理でき、両地域に所属する市民がその課題を共通理解でき、今後の地域の持続可能性を高める取り組みの方向性や目標を設定しやすくなると思われた。
よって、この4要素の持続可能性(環境・社会・経済・文化)は、「持続可能な社会」の構築をめざす多様な取り組みに使えると考えられる。例えば、環境への負荷が少なく、自然と人間との共生が確保された地域づくりを「持続可能な地域づくり」の一つの側面として捉えている143)環境省作成の『持続可能な地域づくりのためのガイドブック』の取り組みを実現するために、以下のように4つの持続可能性を利用ができる。
①ステップ1:4要素による負荷の分析
 まず、環境への負荷が少なくするために、自らが所属する地域社会の日常生活における 環境負荷の様相を4要素の持続可能性(環境・社会・経済・文化)で分析することで、 地域の環境の現状を的確に把握する。
②ステップ2:4要素に軽重をつけたり、組み合わせた実施計画の作成と実施
 次に、自然と人間との共生が確保された地域づくりの指針や手だてを、地域の現状に応 じて、4要素に軽重をつけ、いくつかを適切に組み合わせることで作成し効果的な取り 組みを実施する。
③ステップ3:4要素による成果の分析
 さらに持続可能性に関わる成果を4要素ごとに分析・評価することで、その成果と次回 への解題点が見いだす。
 このように、持続可能な社会を構成する4要素(環境・社会・経済・文化)は、「持続可能な地域づくり」に有効と考える。そこで、本論文においては、市民教育における環境芸術の教材化の領域づくり等において4要素(環境・社会・経済・文化)の持続可能性を活用したい。
 『持続可能な地域づくりのためのガイドブック』では、自然と人間との共生が確保された地域づくりと共に、「持続可能な地域づくり」のもう一つの側面として、地域のあらゆる主体が、自ら積極的に取り組みに関わり、自立した活動を継続的に行っていくような地域づくりを進めていくこと。すなわち、地域自らが主体となって、継続的な活動を進める地域づくりを挙げている144)。そして、図10のように「持続可能な地域づくり」を進めるにあたっては、二つの側面の統合させた取り組みの実現を目指している。  
同様に、第1次から第3次の環境基本計画においても、その長期目標において「環境保全に関する行動に主体的に参画する社会を実現します」146)と必ず「参画」が取り上げられいる。そして、第3次環境基本計画に至っては、重点分野政策プログラムの中に「環境保全の人づくり・地域づくり」の推進が計画され、その推進の理由を以下のように述べている。
「近年、国民の環境問題に対する知識や関心は高まっています。しかし、それが広く国民の間で積極的な行動に結びつき、日々の暮らしにぶりを変えていくまでには至っていない面があります。日々の暮らしはコミュニティの中で営まれており、地域コミュニティのあり方が一人一人の暮らしぶりや考え方にも大きな影響を与えています。このことを踏まえると、環境保全の人づくりと地域づくりを一体的にとらえる必要があります」。147)
 3度に渡って改訂された環境基本計画や持続可能な地域づくりのガイドブックに、「参画」や「地域自らが主体となって、継続的な活動を進める地域づくり」が目標に掲げられているのは、「持続可能な社会」の構築のために、「環境保全の人づくりと地域づくり」、すなわち「地域住民の参画」を実現する難しさが背景にあると考えられる。反面、「環境保全の人づくりと地域づくり」が、「持続可能な地域づくり」の構築のキーワードともいえる。
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by kazukunfamily | 2011-03-16 21:52 | 博士をめざす方へ

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