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日本におけるクリエイティブ・パートナーシップ事業

日本でも文化庁が,子ども達の芸術への関心を高め,豊かな心を育むと共に,学校の文化活動の活性化を図るため,芸術家や伝統芸能の保持者等を出身地域の学校に派遣する「学校への芸術家等派遣事業」を行っている。
これらの事業が行われる背景には,文化芸術の振興を図る目的で,2001年に公布された「文化芸術振興基本法」がある。この法律は,その24条において「国は,学校教育における文化芸術活動の充実を図るため,文化芸術に関する体験学習等文化芸術に関する教育の充実,芸術家等及び文化芸術活動を行う団体による学校における文化芸術活動に対する協力への支援その他の必要な施策を講ずるものとする」と,学校と文化芸術団体及び芸術家が共同でおこなう文化芸術活動を支援する施策を国に求めている。
そして,2002年から「文化芸術の振興に関する基本的方針」の見直しが行われ,2007年に「文化芸術の振興に関する基本的な方針(第2次基本方針)」が閣議決定された。
その中で,文化芸術振興のために取り組む重点事項として「子どもの文化芸術活動の充実」が挙げられ,学校における文化芸術に関する教育への支援を行政に求めた。これを受け,文部科学省及び文化庁は,「学校への芸術家等派遣事業」を実施することとなった。
 しかしながら,イギリスと比較すると,その取り組みは十分とは言えない。例えば,その実施総数の少なさである。2008年度の事業実施校数は,都道府県あたり約27校で,小学校から高校を対象としているため,その割合は0.08%となる。
その原因としては,以下の理由が考えられる。
①事業は,地方公共団体が国の補助を受けて実施されるため,財政事情により実施校数が限定される。
②芸術家の登録名簿が不整備で,派遣講師の依頼が学校の負担になっている。
③事業の教育的な効果について,評価する指標や手だてが十分に示されていない。
④事業が,教師個人の力等に頼る散発的なものが多く,他校の参考になるような年間計画や実践例が十分でない。
⑤複数の省庁や出先機関が協調・協働して事業を支援していない。
日本での,こうした芸術家と学校の連携が深まらない現状を,民間の視点からサポートしているのが,各地のアートNPOである。その動きは全国に拡がっている.

その先駆的な存在がNPO法人「芸術家と子どもたち」である。そのプログラム「ASIAS(Artist's Studio In A School)」は,芸術家が学校へ出かけ,先生と協働でワークショップ型の授業を実施するものである。2000年に7校(350名)の参加から始まり,2008年では56校(2500名)の参加まで,その活動規模を拡大している。
「ASIAS」の仕組みは,学校の依頼(区,県・市教育委員会経由)によりNPOがコ-ディネーターになって,授業内容に適した芸術家を選定し,芸術家と先生による授業づくりのサポートを行う形式がとられている。
こうしたNPOの行う事業の活動費(講師料,材料費,事務局運営費)の一部は,企業メセナや民間財団が助成している。
NPO法人「芸術家と子どもたち」の活動報告書によると,ASIASでは,作品をつくる(結果を出す)ことよりも,むしろそのプロセスや,そこでのコミュニケーションが重視されている。
例えば,2006年に,このNPO法人が仲立ちとなり,東京都北区の西ヶ原小学校2年生(37人)が,建築家集団MOUNT FUJI ARCTHITECT STUDIO(代表,原田麻魚)と,段ボールを使った大型の構造物(巨大なヘビ)を制作している。この活動を教師が事後感想で「段ボールのイメージが覆るような劇的な変化だった」と述べているように,子どもと教師にとって,芸術家との交流は「ひとつ世界が拡がる機会」となった.

この活動報告が掲載されている『ASIAS活動記録集:2004~2006』によると,子どもが芸術家と出会い,協働することで以下の効果が期待できるという。   
①子どもたちの成長に関すること 
・潜在的に持っている力(創造力,コミュニケーション力,等)を存分に発揮できる。
・自分と他者との違いに気づき,多様な価値観を認め合うことができる。
②学校教育や学校の先生に関すること         
・芸術家との共同作業によって,刺激を受け,新たな 視点で授業と子どもを見つめ直し,創造的な教育に ついて考える機会になる。
 ③アーティストに関すること
  ・芸術家と社会との関わりを促進する。
・子どもとの関わりが,彼らの創造活動の刺激となる。
・教育において,芸術家が果たす役割について考える 機会となる。
以上の,イギリスや日本のクリエイティブ・パートナーシップ事業の報告書が示しているように,社会で活躍している芸術家や芸術団体を学校に派遣する取り組みは,子どもの創造性を刺激し,高めることができる。また,教師や芸術家にとっても創造的な実践・作品を生むきっかけになっている。
社会や環境と関わり,多種多様な方法で表現される環境芸術を教材にすることは,子どもや教師に多くのジャンルの芸術家・芸術団体との交流を提供する。そして,その交流の中で芸術家等と共に活動することは,子どもの創造性や他者と関わる力をさらに高めることになると思われる。
ただ,イギリスと比べ,日本のクリエイティブ・パートナーシップによる授業づくりの現実は,美術教師の個人的努力に頼るところが大きく,行政やNPOのよる支援体制も十分とは言えない。
by kazukunfamily | 2012-03-14 00:56 | 博士をめざす方へ

子どもとアートとict教育の関わりを生かした図画工作科教育の実践的研究


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