子どもの造形活動とクリスト

子どもの造形活動とクリスト
(1) プロジェクトのねらいにおける接点
 クリストは,日常的に触れる現代社会と接点を大切にした個人的な巨大造形の制作を行うことで,現代社会を自らの芸術に取り込み、多くの人、組織と関わりながら,先端技術を活用して、社会に潜むモノとモノ,心と心の境界を意識させる作品を出現させ撤去してゆく。そのプロジェクトのねらいをまとめると,
①巨大芸術を制作することで,現実世界を強調してみせる。
 クリストの視覚的に捉えきれないほどの空間的広がりをもつ作品は,私たちの感覚を研ぎ澄ませてより意識的な観察者に成長させ、そして,ついには物の見方そのものを変えてしまう。クリストが特に惹かれるのは,フェンス・橋等の物が別のものへと変化する「境界」である。その境界を表現することで,社会の膿みたいなものから素晴らしいもの,全部ひっくるめてあぶり出すことを狙っている。
②巨大芸術を制作することで自己を確認する。
 クリストは巨大造形プロジェクト遂行の困難性を予測している。そして,その障害を乗り越えるべきものとして自分の芸術の一部にしている。これは、若い頃、東側の世界から西側に出てきた時に彼が感じた「他者性」を多くの人を巻き込むプロジェクトを行うことで自分のアイデンティティとして確かめているからと思われる。7)つまり、巨大造形による自分探しの旅というねらいも彼のプロジェクトにはあると考えられる。
一方,子ども達も現代社会が抱える環境破壊の現実を肌で感じ,清流のもつ美しさや儚さを強調する作品をつくることで身近な環境を大切にすることに目を向けさせようとしていた。また,自分たちの造形プロジェクトに対する周囲の反応から,環境保護に関わる行為をどのようにおこせるか試していた。
(2)プロジェクトの造形活動の展開における接点
 図1に示すようにクリストのプロジェクトにおいては,まず彼の過去のプロジェクトやリアルタイムの世界情勢の体験等から体感した現代社会の明と暗の部分への彼自身の想い=イメージが出発点となっている。それが,作品づくりの目的=メッセージを形成し、途方もなく長く困難に満ちたプロジェクト遂行の原動力になると考えられる。
まず,彼はイメージを形にした巨大作品実現のために,環境調査、技術・素材研究をおこないそれに基づいて構想が分かりやすい設計図や調査報告書を制作する。そして,それを資料に官僚組織,公共機関、地域住民の説得をおこなうのである。この過程においてクリストは,自分が関わろうとする地域の環境(自然・文化・人間環境)の理解を行う。もし,様々な障害によりプロジェクトが中断しようとも,そこままで見いだし体験した人間社会のひずみを次のプロジェクトのきっかけと変えてゆく。
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図1 クリストの造形活動の展開図
 また,イメージに基づきドローイングやコラージュを制作する。これらは,多くの人から支持を得て,共同作業に誘う分かりやすい道しるべになるとともに,この小品の売却益が莫大な費用がかかるプロジェクトの財源となる。そして,長期にわたる財源確保,調査、研究、法的手続き公聴会等をへて,環境や作業への安全性が確保され周囲に理解されれば,布を主素材とし撤去が十分考慮された巨大な作品が人々を巻き込みながら見慣れた自然や都市の風景の中に突如としてごく限られた時間だけ出現し,そして瞬時に崩壊してゆくのである。それは地球環境というステージにクリストが企画・監督・制作した「出現」から「崩壊」への一つのドラマである。このように現代社会を現実をあぶり出し自己を確認するために彼はイメージ・理解・巨大造形組み立てのプロセスを行きつ戻りつして長期にわたりプロジェクトを完遂しているのである。
以上のようなプロジェクト全体の流れを見てみると,クリストにとってプロジェクトに多くの人を巻き込むために,その原点となる現代社会に対するイメージが非常に重要になっていることがわかる。
このイメージを元にする活動の展開は,図画工作科の想いや願いを元に展開する子どもの造形活動に共通するものがあると考える。
(3)イメージの共有化のプロセスにおける接点
クリストのプロジェクトの構想段階または準備段階におこなう手続きは以下の通りである。
①作品を設置する場所の環境の調査研究と報告書作成
②環境に適した(環境に負担を与えない)素材や技術の研究
③自然環境,住民生活、観る者への交通アクセス、作業の安全性等が配慮され、実践可能な計画 書(設計図)の作成
④完成品を把握することできるコラージュ・ドローイングの制作             
⑤ドローイングの販売やスポンサーからの資金の調達。
⑥地元役所等の公的機関への許可書、報告書の提出
⑦地元住民・自治体との懇談会および公聴会の開催
⑧作品製造企業、製造場所の確保。
⑨マスコミ出演によるプロジェクトの構想の説明。
 これらの構想段階,準備段階の手続きは,クリスト芸術がそれにかかわる人的環境の許可と理解がなければ存在しないことを示している。また,この手続きを踏むことにより,一つのプロジェクトで延べ数万人という人々を作品づくりに巻き込むことができるのである。すなわち,プロジェクトは,常に完遂されるためにプランは常に人々に目に見えるようになっている。そこでは,プロジェクト全体が
・作品の骨組み・コラージュやドローイング。
・作品の内容・大勢の共同作業によつて完成される巨大造形作品の存在そのもの。
・作品の外枠・その作品に対峙する個人あるいは群衆 に作用する社会の様々な圧力。
という形で関わる人に見えやすく理解しやすいように構成してあり,作品のイメージが共有しやすくプロジェクトへの参加を容易にしている。
感性と創造への豊かな想像力が萎えてきているといわれる現代社会の我々にとって,クリストの社会へのきめ細やかで分かりやすいプランは,共同制作において人々を巻き込むためにイメージの共有化がいかに大切であるかを教える。彼は多くの声に耳をかたむけ,その場(社会)を知り,関わる人に自分のプロジェクトの説明等の準備段階の様々な手続きを懸命にして相互の理解の上で巨大な造形に取り組んでいる。その芸術活動とその背後にある社会への想いと作品のイメージは大きな波紋となり周囲に広がってゆく。そして,人々は,クリストのプロジェクトには人間社会への願い・夢・感動があり,他者との交流があり,有能感・達成感があることを知り,自ら進んで作品への想いと等身大の力を持って彼の元に集まってくる。クリストをはじめ参加した一人一人の造形へ想いと力が図3のようによせ集まって,彼の作品は完成するのである。
このプロジェクトにおけるイメージの共有化の取り組みは,子どもが自分の作品イメージと友達の作品イメージをコミュニケートさせて,大きな作品を友達と協力して作り上げる取り組みによく似ている。
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by kazukunfamily | 2012-04-05 21:33 | 博士をめざす方へ

子どもと環境とアート教育の関わりを生かした図画工作科教育の実践的研究


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