ゴールズワージと自然環境との共感

ゴールズワージは、1956年イングランドのチェシー生まれで、リチャードロングやナッシュといった日本でも馴染みの深い自然派の第一世代を継ぐ、第2世代の旗手とみなされ、世界各地でも個展が開催されるなど注目を集めている作家である。       
 ゴールズワージは、自然の中に手以外、ほとんど道具も持たずに入り込み、木の葉や土、小石、茎、鳥のはね、雪などの自然の素材を使い、自らのいる場所や素材の持つ特性を生かしながら、自然界に一時的に新たな秩序を創造し、これを写真や紙にドローイングしたりして記録して発表する。彼の自然との対応を大切にした制作姿勢は、イギリスの自然に対する伝統的な愛着を脈々と受け継いでいるといわれる。
その彼が、1987年以来日本に数回来日し、三重県の大内山村・紀伊長島町、福井県和泉村、栃木県足尾町などで制作を行っている。また、1991年から1993年にかけては、日本とイギリスとの「2つの秋展」のためイギリスのスコットランド地方のベン・ネヴィス山と富士山麓において制作を行っている。その際、日本での制作に彼が出した条件は以下のようなものである。
「海辺と山で作業するにあたり、アンディと助手は寝室と仕事場が 必要。仕事場は明るく、少なくと14帖の大きさで、通うのに便 利であること。宿泊場所は仕事場があるところから1.6km以内。
 1)海岸地区:砂、小石、岩がある海岸で、高い崖がないことまたいきやすいこと。小川が海に流れ込んでいるところであれば理想的。
2)山林地区:針葉樹の植林地ではなく。また新木ではなく古木の森がある。高地では雪や氷の可能性があること。
この条件に示してあるように、ある場所に赴きある期間滞在して、そこの自然を徘徊しながら、その中で自然と関わりながら作品を制作する「アーティスト・イン・レジデンス」の作家である彼にとって制作の場である自然環境の特徴が、彼の作品を成立させる大変重要な要素であるといえる。よって彼は、日本での制作後に
「まず第一に、その土地が私の創るものを決定する。日本の自然に は深い影響を及ぼす特質が明らかに存在している。」
と述べている。
 この第1項においては、ゴールズワージが日本において創るものを決定し、制作を通して深く影響を受けた場所にはどのような特徴が見出されるのか、また、そこの自然から何を学ぼうとしたのかについて、日本での制作のために出した条件と制作場所の地理情報等を参考に考察してみたい。
(1)ゴールズワージと森  
ゴールズワージが日本で制作した場所(大内山村・紀伊長島町、福井県和泉村、栃木県足尾町・富士山麓)はすべて紅葉の美しい場所である。彼は森の条件として古木の森としている。
彼はそこで何を見出したのか。
「日本の紅葉を遠くから見ると素晴らしい、その美しい色に感動して近づくと、もうその色は消えてしまっているのです。それは蜃気楼のようにいつも遠くにあるのです。」
彼は、森で紅葉の葉の持つ魅力を感じ取り、紅葉の葉が自己主張の特異な存在ではなく、全体の中にあることでその存在価値が増幅していること、そして、それによって風景全体が調和していることを見出したのである。
さらに、楓の赤については、こうも述べている
「赤く紅葉した楓の木が山の中にポツンとある様は、まるで開いた 傷のようだ。このコントラストがエネルギーと力をもたらし、そ して、私は日本が赤という色の魂の故郷のように思える。」*15
 この古木の森という自然環境は、彼にとって、そのエネルギーと力を感じ取り、それを表現することで、その場を理解する要素が多く存在していると考える。すなわち、自然のエネルギーがあふれる場なのである。
では、古木の森のどのような要素が彼がその場を理解する条件になっているのであろうか。
①楓に象徴されるような色 鮮やかな多くの色が存在 する。またそれが季節に よって多様に変化してゆ く。それが美しいコント ラストを生む。
②様々な木が高さを変えて生きている。そのことにより多くの種類 の形が葉っぱ、枝、として存在する。その形の組み合わせが新し い形を生む。
③生きたにおいが存在する。それは、芽吹くにおい、腐葉土として 発酵するにおい、実を食べに来る動物のにおいなどである。それ は、古木の森のいろいろな生き物の繋がりを示す。
④生きた音がある。生き物の鳴き声、風による小枝がすれる音。すべての音が森が生きていることを示す。
⑤豊かな土がある。この土は多くの意味を持っている。葉が腐り次の世代に託す栄養を蓄えるものであり、森に降った雨を蓄えると ころでもある。ゴールズワージにとっても大切な接着剤である。
⑥豊かな水を生む。広葉樹林は、針葉樹林にくらべ豊かな水をつくる。この水があるからこそ彼の作品は豊かな展開をしているとい ってよい。
⑦様々な石が水の力により生まれ存在している。この石は、彼にとって葉などを張り付ける重要なベースとなるとともに、エネルギ ーの変化を感じ取る要素にもなっている。
⑧豊かで、気まぐれな光の変化が存在する。森は山にある。そこの気象変化は細やかである。しかしながら、降り注ぐ光の表情は豊 かで魅力的である.
古木の森は、時の移ろいにしたが
い、様々な形・色・音・光・におい等を生む、そしてそれらは時にしたがいはかなく、潔く去ってゆく。森は、生き物の時を積みかねた場所なのである。
ゴールズワージは、「私の芸術は、「時」という言葉ですべて表されるでしょう。と述べている。よって、森という生き物の時を積み重ねた場所に、自らの生きる時を制作という形で重ねて、「時」を中心とした作品を作りだしているといえる。
 森という場所は、様々な生き物の時を取り込み制作する作家が、自らも生き物の「時」の積み重ねによって生きているのだといことを発見できる、また、自然環境と「時」を通して一体化できる場所なのである。
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つづく
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by kazukunfamily | 2012-05-20 16:57 | 博士をめざす方へ

子どもと環境とアート教育の関わりを生かした図画工作科教育の実践的研究


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