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クリストと環境とのコミットメント(関わり合い)

2)クリストと環境とのコミットメント(関わり合い)
クリストの作品に関わる人は、その作品の巨大さ故に素材メーカー、エンジニア、法律家を含めると国際的な規模になるはずである。また、作品の構築、管理、解体といった作業にも数十人から数百人が関わっている。主素材量と参加人数が分かっているプロジェクトを例に挙げると、
・1972年・・「谷間のカーテン」アメリカ・コロラド州
ナイロン18500㎡、スチールケーブル49500g
        32人の建設労働者と64人の臨時助手、美術校生、美術専門の移動労働者(28時間後解体)
・1978年・・「包まれた遊歩道」アメリカ・ミズリー州
全長4,5kmのナイロン布(12540㎡)
  布設置作業員84名、建設作業員14名、
        裁縫師4名、 (13日間設置) ・1985年・・「梱包されたポン・ヌフ、パリ」フランス・パリ
ポリアミド繊維の布40000㎡、ロープ1300m
     300人の専門の職人
 これだけの資材を用意し、スタッフを指揮するのは、想像を絶する綿密な計画と指導力を要するはずである。「囲まれた島々」では、さらに規模が大きく、430名の布地設置部隊が海上に島々にピンク色のポロプロピレン布557400㎡を拡げた。設置後も2週間の間、120名の監視部隊が 日夜、ゴムボートで点検を続けたという。 作る人だけではない。作品を一目見ようと遠くからやってくる人、日常の風景の一部としてその作品に接している人、テレビなどのメディアを通して見る人を含めるとその数は膨大なものとなる。
 では、なぜ彼の作品は人と人との関わりを生むのであろう。
 その理由は、彼の作品が見る人に理解するための余裕をしっかり取っている点である。その作品は、生活道路を横切り、見慣れた街の橋・ビル・像や遊び場である海岸を包み込んだりと日常生活の身近な場所にある日忽然と出現する。そして、入場料は無料で、作品の見方や触れ方は、危険のない限りいっさい自由なのである。夜明け前だろうが、日没後であろうと、どこから見てもよいのである。
 また、作品の解説等はいっさい配布や展示はされていない。では、誰がそれをおこなっているのかといえば、その設置に参加した人々である。例えば、「囲まれた島々」では、地元の美術学校の生徒がクリストのプロジェクトを手伝いに来ている。初め生徒たちはクリストのことを全く知らないが、何週間か手伝い、クリスト本人やスタッフと関わり合い、話し合い、活動する中で、彼らはクリストがプロジェクトを通して何を目指しているのかをリアルに学んでゆく。そして、その子どもたちやスタッフが、作品を見に来る人に熱心に説明しているのである。すなわち、彼らはクリストの作品と一体化しているのである。
 クリストは、プロジェクトのプロセスも作品の一部だと述べているが、彼の作品に関わった人々もクリスト芸術の一部なのである。
 彼の作品は人の心を引きつけ芸術の中に取り込む魅力を持っている。そして、人目を引きつける巨大さと華やかさとは裏腹に、どこか、不思議に控えめでもの静かに全てを受け入れている優しさが存在している。なぜなら、クリストのプロジェクトは周囲の人々の協力なしには存在し得ないのである。他の公共芸術が威圧的にそこに存在するのとは異なり、彼の作品は、周囲の理解と許可を必要とするのである。よって、クリストは、それを求めるべく、直接関わったり、メディアを積極的に利用するかたちで、何百万人という人々を作品を通して包合してゆこうとしているのである。そして、さらに大規模なプロジェクトを展開する足がかりにしようとしているのではないかと考える。
 クリストは、自らと人間環境のコミットメント(関わり合い)を芸術の世界に取り込んだ独創的な芸術家であるといえる。
by kazukunfamily | 2012-05-31 20:36 | 博士をめざす方へ

子どもとアートとict教育の関わりを生かした図画工作科教育の実践的研究


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